鶏のササミって、解剖学的に何て名前なんだろうと疑問に思ったことはありませんか?勿論、ササミは学術用語ではなく、俗名です。
正式名称は、深胸筋と言います。文字通り、胸の深いところにある筋肉です。浅胸筋(俗に言うムネミ)に被われています。
ササミは左右にあるので、1羽から2本取れます。胸骨という胸の真ん中奥にある骨の両側にくっついていて、腕の付け根(上腕骨)に向かって伸びています(だから紡錘状に細長いんですね)。
この筋肉の働きは何かと言うと、収縮すると上腕骨がそれに引っ張られて外転します。つまり翼が上に上がります。ちなみにムネミである浅胸筋は収縮すると翼が下がります。掻い摘んで言うと、ムネミもササミも、羽をバタバタさせる為の筋肉なんですね。
ついでに言うと、鳥類は浅胸筋が異様に発達しています(全筋肉中一番大きい!)。羽ばたいて飛ぶ際、揚力を生む為に下向きに翼を下ろす力が必要です。その為の筋肉が発達しているからだと考えられます。でも家禽化された現代の鶏はほぼ飛べませんが。
もう一つついでに言うと、ササミに付いているスジみたいなの、あれの正体は何かご存知ですか?

実はあれ、神経なのです。頸髄の後ろの方と第1胸髄から出る神経で、腕神経叢と呼ばれる網目状のように複雑な集まりを作っているのですが、それを構成する一つである胸筋神経という神経から分かれた枝が、アレの正体です。
参考にした資料:家畜比較解剖図説上巻・下巻
今日の晩ご飯にササミを食べたので、ふと思いついて書いてみましたが、こんな感じで獣医と焼肉に言ったら、2人に1人くらいは延々とウンチクを語り出します。
地味で汚れる仕事が多い獣医が輝く数少ない機会です。
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