一昔前の日焼け対策は、日焼け止めと日傘というのが定番でした。しかし時代は変わっていくもので、最近(もうちょっと遅い?)のトレンドは、日焼けはサプリメントを飲んで防ぐのだそうです。初めて聞いた時、「なんじゃそりゃ?」と本当に効くのだろうか疑問しか沸かないというのが正直な感想だったので、根拠があるのか調べてみました。
日焼けのメカニズム
実証された機序の一つを見てみますと、皮膚はUVA(長波長の紫外線)やUVB(中波長の紫外線)を過剰に浴びると炎症反応を起こし、慢性化すると老化や発癌にも繋がることが分かっています。
様々な生体反応を介してそれらの現象が生じるのでしょうが、一つ言われている原因として、フリーラジカルの生成が挙げられます。フリーラジカルは、「近づくと火傷するぜ」と言わんばかりに、近くの分子から電子を奪い取る(つまり酸化させる)性質を持っており、これにより皮膚の構成成分である核酸、脂質、蛋白質が酸化され、皮膚障害が発生すると考えられています。(参考にした資料はこちら)
もちろん今述べたのは一つの側面から見た皮膚障害の仕組みで、実際には様々な段階で様々なメカニズムで皮膚障害が起きていることが考えられます。例えばもう随分前ですが、2012年にNature Medicineというメジャーなジャーナルに載った話では、紫外線により物理的に破壊された細胞の内容物(non-coding RNA)を周辺の細胞が感知し、それが炎症を惹起するという流れもあるそうです。(参考にした資料はこちら)
どうやら、紫外線によって様々な生体反応が惹起され、それらが重なり合った結果として「日焼け」という現象が引き起こされるようです。
飲む日焼け止めの原理
色々な商品が出ていますが、共通して見られる特徴は、抗酸化作用があるということです。つまり、前述したフリーラジカルに対抗する物質を摂取することで、日焼け止め効果を期待するというものです。勿論フリーラジカルの役割は日焼けという現象の一端を担っているに過ぎませんので、物理的に紫外線を遮蔽する塗る日焼け止めと比較すると効果もかなり違いそうな予感がします。
飲むことで本当に日焼け止め効果に繋がるのか
PubMed(論文検索サイト)で見てみると、いくつか検討している研究はあるようです。1例として抗酸化作用を持つポリフェノールを検証した15の研究結果を纏めてみたとという論文がパッと目に入ったので読んでみました。緑茶、チョコレート、ワインを実際に人が飲んでみて、紫外線を当ててみたという実験をしたそうです。結果、緑茶、チョコレートは効果がなかったそうです。一方ワインは、高ポリフェノール含有ワインを飲んだら、皮膚を赤くするのに必要な紫外線量が減った(つまりちょっとの紫外線で日焼けしてしまう)と書いてあり、???となりましたが、元ネタとなった論文を見てみると、皮膚を赤くするのに必要な紫外線量は増えたとちゃんと書いてありました。つまり、高ポリフェノールワインには日焼け止め効果があるという可能性があります。ただ、オープンアクセスじゃなかったので詳細は読めず。その為、どの程度の効果だったのか、信憑性(どんなリミテーションがあるか)があるのかについては分かりません。
時間の都合で一研究しか読めていませんが、少なくとも飲むことで全身の日焼け止め効果が得られるというのは、難しいことなんだろうなという印象を持ちました。
包括的に論文は見れませんでしたが、実際に色々な飲む日焼け止めのサイトを見ていくうちに、確かに効果が実証された成分を配合していることを謳っている物も散見されます。よく見かけるのが、ニュートロックスサンやフェーンブロックという物質です。ただし、僕よりずっと早く有効性に疑問を持った先人たちが既にたくさんいらっしゃって、SPFを実際に計算していますが、1とか2らしいです。これはダイエットグッズで置き換えて考えると、この商品を使うと絶対に痩せます、5g痩せました、ほら痩せたでしょ?と言っているようなものではないでしょうか。例えが微妙だったかも。
市販品は効くの?
ネットでいくつかの商品を適当に選んで販促のための文章とともに見てみましたが、正直に言って誇大広告も甚だしいという印象を持ちました。
確かに前述した通り、ものによっては抗酸化物質の摂取が紫外線に起因する炎症の抑制に一部効果があるかもしれないということを示してはいますが、だからと言って、飲む日焼け止めを飲んで、日焼け止めとして期待するレベルで機能するかどうかと言われれば、ちょっと無理があります。SPFやPAをきちんと明記すれば誤解が少なくなっていいと思いますが、そんなことをすれば売れなくなるのできっとメーカーは自主的にはしないでしょう。
また成分も前述した物だけではなく、バリエーションが出てきています。売る側としてはライバルと差別化しないと生き残れないので当然の流れですが、果たして有効成分が本当に効くのか、効くとしても活性を持った状態で皮膚にデリバリーされるのか、効果的な濃度で局所に分布するのか、それは効果的な時間保っていられるのか、そして逆に有害な作用はあるのかなど、疑問点を挙げればキリがありません。そしてそれに対する明確な回答(第三者による客観的な検証)は何も見つかりませんでした。
ちなみに、FDA(アメリカ食品医薬品局)は飲む日焼け止めに対して警鐘を鳴らしており、そのことも含めて太陽光による害を防ぐ為の声明を出しています。
実はアメリカでも同様のサプリが流行っているらしいのですが、その効果は実証されておらず、消費者に誤解を与えるとしてFDAは企業に対し警告文を送ったそうです。
結論
結果的におすすめできるかと言われれば、おすすめはしません。堂々と誇大広告をしているメーカーからは売れればいいやといった姿勢しか感じられませんので。しかし経済を活性化させるという意味ではいいのではないでしょうか(言うまでもなくアイロニーというやつです)。勿論、副作用が出て医療費が嵩めば元も子もないですね(胃腸障害が稀に出るらしいです)。
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