初めての鼻から胃カメラ体験記

事の発端は、会社の健康診断で行ったバリウム検査でした。その結果でありがたくない宣告をされたのです。

「辺縁不整、要精密検査」

バリウムというのはただ胃の壁にくっついているだけなので、くっつきが悪かったらレントゲンの画像がしっかり見えません。とは言え、当然実際に何かの病気があった時もそのような所見になりますので、精密検査となってしまいます。ここで言う精密検査とは、胃カメラのことです。レントゲン写真を撮るよりも直接内部を目で見ちゃった方が圧倒的に情報量が多いのです。

僕は胃カメラだけは避けて通りたかった、諸々の病気の早期発見の為に40歳を過ぎたら飲まざるを得ないかなとは思っていたけど、今の段階ではまだ飲みたくなかったのです。先々月、上司が生まれて初めて胃カメラをやったらしく、それはもう苦しくて辛くて生き地獄とはまさにこの事、いっその事このまま殺してくれとさえ思った、いずれ君もやるんだよ(ニヤリ)と嬉々として僕に語りかけて来た姿が脳裏に浮かびます。まさかこんなに早く自分の番がやってくるとは。

先日かかりつけの内科に相談しに行ってきました。話を聞くところによると、3パターンの選択肢があるそう。

  1. 口から入れる検査、鎮静あり
  2. 口から入れる検査、鎮静なし
  3. 鼻から入れる検査、鎮静なし

1は昔からやられている、口からの検査。王道の胃カメラです。鎮静下でやればボーッとしている間に終わるので楽らしいのですが、この場合その日は車を運転することはできません。都会の病院だったら問題ないのかもしれませんが、田舎の病院では無理ゲーです。病院自体駅から何キロ離れているか分からないし、バス停もどこにあるのか分からない。公共交通機関で行くのは大変難しいです。タクシーも検査料金より高くなる。そんな時は、運転して帰れる、2の鎮静なしを選びます。ただ、これはかなり辛そう。前述した上司はこれだったそう。そこで第3の選択肢として、鼻から入れる検査というものがあります。鼻からでも入る細いスコープが開発されたという医療機器の発展のおかげで、鎮静なしでもより楽に受けることができます。無論僕は鼻からを選びました。この日は三日後に予約をして帰宅。

ただ帰って冷静に考えてみると、鼻から管を入れるとか狂気の沙汰でないとか思っちゃう訳です。僕は鼻うがいでさえ怖くてできた試しがないという臆病ぶり。その上、僕の鼻は敏感で、ハウスダストマイトにアレルギーを持っているので1年中鼻炎、ちょっとした刺激で鼻水ずるずるという状態。さらに鼻の穴が狭くてスコープが通らない場合は検査ができないから口から飲むしか選択肢がなくなるらしいのですが、年中鼻炎で粘膜が肥厚していない訳が無い。もう懸念事項しかありません。そんな感じでモヤモヤを抱えながら過ごしました。

そして前日。夜7時までに消化にいいもので食事を終わらせる必要があるらしいのですが、僕は餃子を食べました。消化にいいのかどうかは分かりませんが。そしてその後は水分しか摂れません。夜はここで寝てしまったらすぐに明日が来る。眠れないので携帯アプリ版のFF15をやっていました。夜更かしして全クリしてしまった。

いよいよ当日です。当日は水さえも飲めません。病院に行くのが億劫で仕方がありませんが、逃げる訳には行きませんので、意を決して家を出ます。ノクトが真の王として使命を果たしに王宮へ行く時の気持ちはこんなだったのかとか思いながら、2歳の息子に「胸を張って生きろ」とか訳の分からない事を言いながら家を出ました。

予約時間通り、9時半に病院に到着。15分くらい待合室で待ちましたが、熱はないはずなのにぶるぶる震えていました。何度も深呼吸して気持ちを落ち着かせます。問診のために小部屋に連れていかれて血圧を測ったのですが、緊張していた為かいつもより上で20mmHgくらい高かったです。問診では、鼻から行きますの最終確認と、麻酔薬にアレルギーが起きた事はないかの確認をされました。

また待合室で5分ほど待った時、いよいよ検査室の方から声がかかりました。

検査室は真ん中に上下に動かせるタイプのベッドがあり、それを挟んで両方にモニターがありました。後は洗い場があったり、棚やボンベが雑多に置かれているという感じの部屋です。恰幅が良くいかにも肝っ玉母さんって見た目の看護師さんに出迎えられました。頼もしいオーラが出ていて、なんかこの人に任せておけばなんとかなりそうな気がするという妙な安心感がありました。

まずは椅子に座らされ、胃の中の泡を消す薬を小さなコップ一杯飲まされました。見た目は白っぽい液体です。味はものすごく不味いという訳ではなく、「”決定的な何か”を入れ損ねたカルピス」みたいな味がしました。直後に鼻の穴を広げる薬を左右の鼻に打つと言われ、2.5ccくらいの小さめのシリンジの先端に細いチューブが付いていて、それを鼻に突っ込んで薬液を注入されました。ツーンと来るのかなと思いましたが、何も感じず。痛みも全くなかったです。しばらくすると口に流れてきて苦かったというくらい。鼻の通りはあまりよくなかったのですが、数分置いたら、スースーと鼻で息をするのが楽になりました。

次に麻酔を打ちますと言われ、さっきと同じ大きさのシリンジにさっきより若干長いチューブがついているものを鼻に突っ込まれ、注入されました。感覚としては霧状のものを噴霧された感じ。全く痛みはなかったです。これも苦い。飲んじゃうとむせちゃう人がいるから口に下りてきたら吐き出してとコップを渡されましたが、反射的に飲んでしまった。しばらくすると鼻と喉がじんじんしてきました。5分くらい待ったでしょうか。再度麻酔を打つと言われ、同じ薬剤を、今度は1回目よりも多い量を打ちました。痛いどころか正直何も感じなかったです。

2回目の麻酔を注入してから5分くらいでしょうか。いよいよベッドに横になってと言われます。この時、メガネを取ってと言われました。結構ショックで、憂鬱な検査の中で画面を見る事だけが唯一の楽しみだったのに、それをいきなり取り上げられるというショック。大人しくメガネを渡すと、横になって回転してと言われました。言われた通りにします。多分泡を消す薬を胃全体に行き渡らせる為だと思います。その後、仰向けになった状態になり、最後にゼリー上の麻酔を入れますねと言われ、鼻にシリンジを突っ込まれますが、すでに腫れぼったい感覚だけがしていてシリンジを突っ込まれた感覚はなし。次いでスコープと同じくらいの太さの透明のチューブを両方の鼻に挿して、ちゃんと入るかどうかを確認していました。感覚はほぼないので、全く痛いとかはなかったです。両方の鼻に刺さった状態で数分。この時に右の方が広い気がするので、右から入れましょうねと告げられます。

左下に寝て背中を丸め、膝を曲げるという検査をする体勢になりました。熱はないはずなのに寒気がしてぶるぶる震えていました。毛布をかけてくれたのがありがたかったです。よだれが出たら飲み込むとむせるから全部吐き出してと言われ、膿盆(ノーボン、空豆型の金属の容器)を口の前に置かれました。

2、3分くらいその状態で恐怖に打ち震えていたら、別の看護師さん(この方も肝っ玉母さんみたいな見た目)が入ってきて、間も無く使い捨てガウンに身を包んだ先生が入ってきました。この時は意外と冷静で、看護師さんみんな似てるな、病院の採用基準は見た目の頼もしさなんだろうか、そういえば先生も恰幅がいいなとかどうでもいい事を考えていました。その瞬間、先生はなんの躊躇いもなくスコープを手に持ち、鼻にイン。ズボズボと進めていきます。

予想に反して、入れ始めはほとんど何も感じなかったです。鼻の奥になんとなく異物を突っ込まれているなというのは感じますが、別に不快感もなし。こりゃ楽勝だなと思いました。が、スコープの先端が喉に来た時、いきなりオエって来ました。喉の奥のそのまた奥が突かれている感じ。めちゃくちゃ苦しい。吐きそうになったけど、胃のなかは空っぽなので何も吐けません。これは検査時間が5分でも耐えられないかもしれない。必死で深呼吸に徹していましたがもうダメと心が挫けそうになったその時、先生がスコープをスルスル先に進めているのが見えました。先端から何cm入ったか目盛りが書いてあるのですが、30cmとか入っていた。と同時に、先ほどめちゃくちゃ苦しかったのはどうしたのだろうというくらい、落ち着きました。どうやら喉の一番苦しい部分を通る数秒が耐えどころで、ここさえ通り過ぎればなんて事はないようです。

先生が内視鏡の持ち手を捻ったりして操作していることから、胃の中をあちこち見ているんだろうなと思うのですが、モニターが見えないから何やっているのかよく分かりません(見ても分からんだろうけど)。でもそんなに苦しくはないです。たまに、あ、スコープが今お腹の中に居るって感じるくらいで、特段気持ち悪さはなかったです。一回だけ、胃を膨らませる為にガスを充満する時、ゲップを我慢しなければならず若干苦しかったのですが、それはすぐに終わりました。

検査中少し気になったのが、先生がモニターを見ながら看護師さんに何かぶつぶつ言ってはうなずき、ぶつぶつ言ってはうなずきとしていて、その会話の内容が声が小さいのと機械の音で聞き取れなかったのが不安でした。なんかやばい病変でもあったのだろうか。

それから、人によってはもう一点気になるだろうなと思った事と言えば、検査中はよだれだらだら、鼻水(というか鼻に打ち込んだ薬)だらだら垂らしっぱなしで、この時の僕はおそらく人間としての尊厳を失っていました。

時間にして10分程度でしょうか。食道、胃、十二指腸の観察を終え、先生が内視鏡を引き上げます。目盛りが50cm、40cm、30cmとどんどん移動していて、抜かれているのが分かります。喉のところでまた苦しくなるのかなと身構えましたが、全然そんな事はなく、ほぼ何も感じませんでした。

先端が鼻から出てきて、先生が「お疲れ様でした」と言った瞬間、全身の力が抜けるのを感じました。なんだかんだ緊張で全身の力が入っていたようです。終わったんだという安堵感のみが残り、しばらく呆然としていました。が、周りにいた肝っ玉母ちゃんズが手際良く毛布を剥ぎ取って口自分で拭いてとティッシュを渡されました。

これから1時間は水も飲まないようにと注意をされ、待合室に向かいます。しばらくすると、診察室に呼ばれました。

結果を説明してくれたのですが、どうやら大きな病気はなさそう。少し気になるのが、胃の後壁の表面が若干赤いところがあるという事でした。典型的なピロリ菌の病変ではないけど、ピロリ菌でそうなることもあるらしいので、追加で検査を受けることに。

今は便利なキットが出ていて、息を吹きかけるだけでピロリ菌の有無が分かります。原理を説明してくれましたが、どうやらピロリ菌はウレアーゼという酵素を作る能力があって、その作用で尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解することができるそうです。で、尿素を構成する炭素を同位体(13C)で標識しておいたもの(錠剤)を飲み、もしピロリ菌がいたら、その13Cが含まれた二酸化炭素が検出されるという仕組み。受ける側とすればお手軽です。

早速検査室に連れられ、肝っ玉母ちゃんに錠剤を飲めと言われます。検査が終わってまだ30分くらいしか経ってない時点で、まだガッツリ麻酔が効いていて唾も飲み込めない。さっき1時間飲まないでって言ったやんって思いながら、飲むの厳しいですと言ったら、水を一口飲んで試してみてと言われやってみますが、案の定むせて飲むどころじゃない。大人しく麻酔が覚めるまで待合室で待っていました。

この時間がとにかく辛く、麻酔で喉の感覚がないので、唾が溜まっているかどうかも分からない、なんか気管に入りそうな気がする、でトイレに行って唾を出すというのを繰り返していました。

10分おきくらいに肝っ玉母ちゃんに「いける?」って催促されましたが、結局30分くらい待った時にやっと麻酔が覚めてきたので、検査開始。検査自体はなんて事はなく、楽勝で終わりました。もしピロリ菌がいたらアンモニアができて息がすっごい刺激臭になるのかな、これから仕事なのにな、でもアンモニアは水にめっちゃ溶けるから外には出ないかとか余計な事を考えていました。検査結果は来週だそうです。

さて、今回は初めて内視鏡検査を受けたという話をしました。この体験記が、これから内視鏡検査を受けるけど、不安で不安で堪らないという方の助けに少しでもなれば嬉しいです。

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