次亜塩素酸水の噴霧では新型コロナウイルスに効果はないとの見解を製品評価技術基盤機構(NITE)が公表し、それに関するニュースがたくさん配信されています。ところがそう言ったニュースは注意深く読み取らないと勘違いし易い表現となっており、混乱の元になり得ます。実際僕の会社でも「次亜塩素酸って効かないんだ」と勘違いしている人がいました。
次亜塩素酸の作用機序についてはこちらをご覧ください。
この記事では、よくある次亜塩素酸に関する勘違い2点を分かりやすく整理しています。ご参考になりましたら幸いです。
勘違いその1:次亜塩素酸は新型コロナに効かない!?
次亜塩素酸を有効成分とする消毒剤は大きく分けて2種類あります(正確に言うともっとあるけど、話を単純にする為にそう書いています)。
- 次亜塩素酸ナトリウム
- 次亜塩素酸水
どちらも有効成分は同じ「次亜塩素酸」で、名前もよく似たものですが、性質は全然違います。
次亜塩素酸ナトリウムは、科学的性状として酸性に傾くと有毒な塩素ガスが出てきます。その為、製品化されているもの(ハイターなど)は、アルカリ性に調整されています。アルカリ性である為、皮膚に触れると化学やけどを起こします。
参考にしたサイト:日本食品洗浄剤衛生協会
一方、次亜塩素酸水は食塩水(または塩酸)を電気分解して作られるもので、水溶液中に次亜塩素酸イオンや次亜塩素酸を含みます。次亜塩素酸ナトリウムと異なり、こちらは酸性です。特に皮膚に近い弱酸性に調整された製品は、皮膚と同じpHの為、安全に使えることが売りのようです。
参考にしたサイト:厚生労働省
今回の報道で問題になっていたのは後者、次亜塩素酸水です。新型コロナウイルス感染症の流行が契機となり、様々な次亜塩素酸水製品が販売されています。ところが、全てが安全性や有効性が確認されているものとは限らないようなのです。特に、有効成分の次亜塩素酸は化学的に安定な物質とは言えず、pHや製法などの条件次第では有効濃度を保てないこともあります。そういった製品が出回る事を危惧し、今回の検証を行ったのだと想像します。
参考にしたサイト:「次亜塩素酸水」等の販売実態について(ファクトシート)
今回の「次亜塩素酸水の噴霧は新型コロナウイルスには効かない」との報道は、少なくとも、「次亜塩素酸」が新型コロナウイルスには効かないと言った発表ではありません。次亜塩素酸はかなり強い消毒作用があるので、もしそんな事が証明されれば大事件です。今回のいくつかの報道から考えるに、次亜塩素酸が有効濃度含まれているかどうか怪しい製品が出回っているから、パッケージの情報を鵜呑みにするなということを注意喚起しているのだと思います。
勘違いその2:空間噴霧が有効!?
人に向かってミスト状に吹き出したりする製品があるそうです。上に述べた次亜塩素酸水でも、そう言った使い方を推奨している製品があります。
そもそも人がいる空間での噴霧は、世界保健機関(WHO)もアメリカ疾病予防管理センター(CDC)も推奨していません。
消毒剤がなぜ効果を発揮するのかというと、一つは蛋白質を変性させるからです。消毒剤には色々な種類があり、その機序は酸化・還元反応だったり重合反応だったり架橋形成だったりと色々ですが、共通点は蛋白質の機能をなくすことです。微生物は蛋白質の塊なので効果があります。ところが人体も蛋白質でできています。使い方を間違えると(空間噴霧はその主たる例!)有害です。
さらに付け加えると、例えばウイルスの話ではないですが、細菌は細胞膜(形質膜)の外側が細胞壁という強固な構造物で覆われています。物理的正常は、細胞膜でしか覆われていない人間の細胞よりも強いです。そんな強い細菌に効果があるのに、無防備な人間の細胞(皮膚は角質層というバリアがありますが、目や気道などの粘膜はほぼ無防備です)がただで済む訳がありません。(空間噴霧じゃないですが、傷口の細菌感染を防ぐ為の消毒薬塗布なんかも以っての外ですね)
細菌やウイルスに選択的に効果を発揮する夢のような空間噴霧剤があれば話は別ですが、実際そのようなものはありません。その為、WHOもCDCも空間噴霧は推奨できないとしているのが現状です。
空間噴霧は、人がいない空間で効果的な薬剤を用いて行い、終わったら換気することで人間に毒性が出ない濃度まで下げ、その後で中に入るというのが正しいやり方です。
参考にした本:獣医微生物学 第4版(クリックでAmazonに飛びます)
参考にしたサイト:「次亜塩素酸水」の空間噴霧について(ファクトシート
最後に
今は消毒薬がすごく売れる状況で、メーカーはこの流れが終わらないうちにとにかく早く製品を世に出す必要があります。その為、一部の製品は本来なら販売前にやるべき効果の評価がおざなりになっていたのだと推測します。勿論早く販売しないと供給が間に合わなくなり、それはそれで困るのでスピードも大事ですが、健康被害が出てからでは遅いので、せめてファクトシートに載っているような科学的特性を踏まえた表示をしてもらいたいものです。
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